2019年10月から適用される新薬価が、8月19日に告示されました。予想していた9月5日前後より半月以上も早かったのでびっくりしています。
今回の薬価改定は19年10月1日の消費増税に対応するものなのですが、普通に考えれば1.85%(=1.10÷1.08)の増額にすればいいのですが、長期収載品や後発医薬品の薬価をまず引き下げてから増税対応するなどの措置があり、結果的に薬価が上がるもの、変わらないもの、下がるもの、大幅に下がるものなどがあります。
薬価改定以外にも10月に診療報酬も一部改定されるのですが、こちらのブログが大変参考になります。
ここでは、皆さんが日常業務で知りたい「結局、どの品目の在庫を絞んなきゃいけないの?」にお応えするべく、在庫絞るべきリストを紹介します。
まずは新薬価一覧の入手から
私が薬価データを得るために利用しているサイトはこちらです。
ここにある「医薬品マスター」をクリックしてZIPファイルをダウンロードすると、「y」というシンプルなファイル名のCSVファイルがあります。
CSVファイルなので、すぐにExcelで活用できるので重宝しています。
(8月19日に告示された薬価ですが、このサイトにデータが掲載されたのが23日でした)
通常の薬価告示は、例えば亜鉛華軟膏とか酸化マグネシウムなどは「10g」でいくら、となっているのですが、 このデータの素晴らしいところは全て「1g」単位となっていることなんです。
利用するのは、
C列:医薬品コード(私はレセ電コードと呼んでいます)
E列:医薬品名・規格名(告示名よりも丁寧)
- 告示名称:ベイスン錠0.2
- 医薬品名・規格名:ベイスン錠0.2 0.2mg
L列:新薬価
Y列:旧薬価
AF列:薬価基準コード(厚労省コードともいう)※YJコードではないので注意!
また、AC列がすべて空欄のため、うっかりリストを並べ替えすると医薬品名と薬価基準コードがバラバラになる事にも注意が必要ですね。
リストから必要箇所をコピーし、加工する
次に、データ活用していきます。
上述の5項目を利用したいので、各列を選択(「Ctrl」を押しながら列タイトルを順にクリック)し、新しいブックにコピペします。
1行目にタイトル行を挿入し、項目名を入力して、列幅を整えておきましょう。
F列に「薬価引下げ率」というフィールドをつくります。
F1セルに「薬価引下げ率」と入力します。
F2セルに以下の数式を入力します。
=(D2-C2)/D2 …(薬価が上がる場合はマイナス表示)
書式設定で「%」、「小数点以下桁数増」で整えます。
F2セルのフィルハンドルをダブルクリックすれば、最下行まで数式がドラッグされます。 これで「薬価引下げ率リスト」の出来上がりです。
採用品目と10月以降の使用量見込みを確認
各薬局で採用している在庫システムから「採用品在庫一覧」のようなリストをExcel又はCSVファイルで抽出します。
上の「薬価引下げ率リスト」のG列などにさらにフィールドを追加していきます。
G列:採用品
H列:使用量
G列にはVLOOKUP関数またはCOUNTIF関数で、医薬品コードまたは医薬品名を基準にして、「採用品在庫一覧」ファイルから当該薬品が採用されているかを検査します。
※薬価基準コードはユニークではない(一つのコードが複数の医薬品に割り当てられていることがある)ので、検査の基準にしてはいけません
VLOOKUP関数を使う場合
=IFERROR(VLOOKUP(医薬品コード,検査対象のセル範囲,1,0),"")
⇒ 採用されていれば医薬品コードが表示、採用されていなければ空白
COUNTIF関数を使う場合
=COUNTIF(検査対象のセル範囲,医薬品コード)
⇒ 採用されていれば「1」、採用されていなければ「0」
ただし、採用品在庫一覧がJANコード単位など、同じ医薬品に対して複数行記載されている場合はその行数を表示します。
- 医薬品コード:医薬品コードのセルを選択します、医薬品コードが「採用品在庫一覧」に項目がなければ、医薬品名でも構いません(告示名ならNG)。
- 検査対象のセル範囲:「採用品在庫一覧」の中の医薬品コードの列全体を指定、または上の関数で医薬品コードではなく医薬品名を使った場合は「医薬品名」の列を選択
H列にも同様に、使用量を検査します。
まず「採用品在庫一覧」のリストの中に「使用量」や「処方量」などの列があることを確認してください。さらに、それは何か月分か?も確認しましょう。
VLOOKUP関数を使う場合
=IFERROR(VLOOKUP(医薬品コード,検査対象のセル範囲,列数,0),"")
- 検査対象範囲:「採用品在庫一覧」の中の医薬品コード~使用量までの列を選択
- 列数:医薬品コード列を1列目として、使用量列までの列数
※検査対象範囲は必ず検査の基準である「医薬品コード」列から指定するのが掟です
※JANコード単位など一つの医薬品につき複数行がある場合は使えません
SUMIF関数を使う場合
=SUMIF(在庫一覧の医薬品コード列,医薬品コード,在庫一覧の使用量列)
※JANコード単位など複数行あっても該当する医薬品の使用量を合算して表示できます
使用量見込みで在庫絞るかを判断
9月末まで在庫を絞るか、買い溜めしておくかについては以前の記事でも書きました。
結論としては、10月の薬価引下げ率 が、
- 「1.8%以上」なら在庫を絞る
- 「1.8%以下」または「薬価引上げ」ならなるべく多く在庫する
ということでした 。
今回は絞る目安と買い溜めする目安を考えます。
既に厚労省から「買い占めなどをしないように」とお達しが出ていますので、あくまでも良識の範囲でということでお付き合いください。
在庫を絞るのは、患者の来局を見込んで欠品しないようにできるだけ発注を「我慢」することに尽きます。
対して、在庫を多く持つことに関しては、単純に〇ヶ月分を9月に発注するかを本部指示かなんかで示せばいいでしょう。
ただ、低薬価品をチマチマ買い溜めしても、増税対策の効果は限定的です。逆に、棚卸前に在庫を増やすことで管理コスト(手間)をむやみに増やすことにもなりかねません。
なので、どの品目をどの程度備蓄するか、が重要です。
(0.018 - 薬価引下げ率)x 現薬価 x 買い溜め数量 = 増税対策効果 …①
となります。「増税対策効果」と表記しましたが、10月以降に仕入れた場合はその分だけ仕入れ値が高くなるということでもあります。
一方、薬価引下げで在庫価値の目減りについては、
(薬価引下げ率 - 0.018 )x 現薬価 x 9月末在庫数量 = 在庫価値目減り …②
となります。実際は未来の在庫を把握するのは難しいので、現時点での在庫数量を9月末の在庫数量に置き換えて試算してみるといいでしょう。
私の薬局の在庫データで試算してみたのが上図です。
採用していれば在庫が生じているでしょ、ということで採用品のところを「在庫数」としました。「使用量」は直近3か月間の値を入れて、「影響額」は上の①式をベースにして買い溜め数量を使用量以上の包装単位数量としてみました。
って、意味わからないですよね。(日本語って難しい…)
上図で1行目にある「サーティカン錠0.25mg」で説明すると、まず3か月使用量は140となっています。一方この薬品の包装容量は60錠包装です。つまり60錠包装で140錠以上となるのは180錠ですよね。Excel関数でこの数値を求めています。使うのはCEILING関数です。
CEILING関数とは、「指定された基準値の倍数のうち、最も近い値に数値を切り上げる」もので、CEILING(数値、基準値)と引数を入れます。
上図の「サーティカン錠0.25mg」の場合は、
=CEILING(140 , 60 )= 180 を買い溜め数量としました。
この試算で薬価引下げによる在庫金額の目減りと、買い溜めによる在庫金額のアップを合計すると約3万円のプラスとなりました。
このように関数を利用すると、買い溜めするといくら増税対策に貢献するのかがきりわかります。
ただ、薬価差の小さいものまで買い溜めしても大した効果はないので、プラスの影響額が上位30品目のうち、薬価が100円以上のもので、フィルタをかけると18品に絞り込まれました。そして、影響額はなんと117千円もあります。(上図 赤〇)
約3万円のプラスを享受するために買い溜めする金額を見ると、この18品目に絞っても約437万円(現薬価ベース)ありました。
薬価引下げになる品目である程度在庫金額は押さえられるとは言え、400万円の在庫を抱える勇気があるかどうか。という問題になりそうですね。
数字の上では、使用見込みがあるのであれば、引き上げ対象品については在庫を抱えるべきなのですが…
私の薬局では、今回のような年度途中に、消費増税があり、引下げを含む薬価改定なんかはそう経験できないイベントと位置付けて、約400万円の備蓄にトライしてみようかと思っています。
みなさんの薬局ではどうしますか?
薬価引下げ率リストを上記の手順に則って作成しました。
※元データは厚労省が管理する「診療報酬情報提供サービス」からなのでご安心ください