7月12日の夜に厚労省HPに
1)「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について
2)長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養における費用の計算方法について
3)長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)
が掲載されました。
1)には、レセプトの摘要コメントなどの記載について、
2)には、選定療養における各費用の計算方法について、
3)は、その名の通り疑義解釈について、が記されています。
今回は、3)の疑義解釈資料について考察をしたいと思います。
まず資料はこちらから入手できます。
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001275325.pdf
掲載ページは→後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
- 【医療上の必要性について】
- 【薬局における医療上の必要性の判断について】
- 【一般名処方について】
- 【院内処方その他の処方について】
- 【後発医薬品を提供することが困難な場合にについて】
- 【公費負担医療について】
【医療上の必要性について】
問1 医療上の必要があると認められるのは、どのような場合が想定されるのか。
これに対し、答として①~④が記されました。
① 長期収載品と後発医薬品で薬事上承認された効能・効果に差異がある場合(※)であって、当該患者の疾病に対する治療において長期収載品を処方等する医療上の必要があると医師等が判断する場合。
つまり、「効能効果に差異があるために長期収載品を処方する場合」、がこれに該当すると解釈できます。
② 当該患者が後発医薬品を使用した際に、副作用や、他の医薬品との飲み合わせによる相互作用、先発医薬品との間で治療効果に差異があったと医師等が判断する場合であって、安全性の観点等から長期収載品の処方等をする医療上の必要があると判断する場合。
ア)副作用
イ)他薬品との相互作用
ウ)長期収載品との間で治療効果に差異
があったと医師等が判断し安全性の観点等から長期収載品の処方が必要と判断した場合が該当します。
「当該患者が後発医薬品を使用した際に」とあるので、実際に当該患者に該当する事象が生じた経験があることが前提です。多くの患者で起こり得るから、とかは当てはまらないことになります。
③ 学会が作成しているガイドラインにおいて、長期収載品を使用している患者について後発医薬品へ切り替えないことが推奨されており、それを踏まえ、医師等が長期収載品を処方等する医療上の必要があると判断する場合
各学会が作成しているガイドラインで、他の医薬品へ切り替えないことが推奨されていることを踏まえて、長期収載品の処方が必要と判断した場合、ということですね。
④ 後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いにより、長期収載品を処方等をする医療上の必要があると判断する場合。ただし、単に剤形の好みによって長期収載品を選択することは含まれない。
ア)薬剤の適用方法に関すること
イ)吸湿性など調剤に関すること
など剤形の違いにより長期収載品の処方が必要と判断した場合ということでしょう。
わざわざ「単に剤形の好み」が理由であれば医療上の必要性に該当しないと記されていますので、OD錠だと味が嫌、とかで先発品を選ぶのであれば選定療養費を徴収するということでいいと思われます。
またSNSでは、「配合変化などのため先発品で調剤する場合はどうなんだ?」とかが盛り上がってますが、イ)に該当すると解釈するのが自然でしょう。
ア)の具体例はあまり思いつかないのですが、細粒剤に対する後発品が顆粒剤で粒が大きくて嚥下に支障がある場合などでしょうか。ただ、実際には後発品の方が剤形に工夫が施されていることが多く、ア)に該当する事例はあまりないように思いますが、どうでしょうか。
また、保険薬局の薬剤師においては
・ ①、②及び③に関して、医療上の必要性について懸念することがあれば、医師等に疑義照会することが考えられ、
つまり、①~③については疑義照会が必要で
・ また、④に関しては、医師等への疑義照会は要さず、薬剤師が判断することも考えられる。なお、この場合においても、調剤した薬剤の銘柄等について、当該調剤に係る処方箋を発行した保険医療機関に情報提供すること。
④についてのみ、疑義照会不要で薬剤師が「医療上の必要性」を判断できることとなりました。ただし、調剤した薬剤について医療機関への情報提供が必要とされました。
当初の規定では①~③についても薬剤師も判断できそうな記述でしたが、このように通知されてしまい、なんだかガッカリ感は否めませんね。
ここは、考え方を切り替えて「①~③については医師の判断に委ねればいいし、それしかない」と割り切ればスッキリしそうです。
問2 治療ガイドライン上で後発医薬品に切り替えないことが推奨されている場合については、長期収載品を使うことについて、医療上の必要性が認められるということでよいか。例えば、てんかん診療ガイドライン 2018(一般社団法人日本神経学会)では、後発医薬品への切り替えに関して,発作が抑制されている患者では,服用中の薬剤を切り替えないことを推奨する.」、「先発医薬品と後発医薬品の治療的同等性を検証した質の高いエビデンスはない.しかし,一部の患者で,先発医薬品と後発医薬品の切り替えに際し,発作再発,発作の悪化,副作用の出現が報告されている」とされているところ、この場合に医療上の必要性は認められるか。
(答)医師等が問1の③に該当すると判断し、長期収載品を処方等する医療上の必要があると判断する場合であれば、保険給付となる。
医師が医療上の必要性があると判断するかどうか、ということですね。
ここで、これまで出荷調整などもあり数年にわたり一般名処方でテグレトール錠を調剤していたケースを考えます。
24年10月以降も同様の処方で「医療上の必要性」のチェックがなかった場合は、薬剤師は「テグレトール錠で調剤しなくていいのか?」を疑義照会をしないと調剤できないことになります。とても面倒です。
つまり、9月までの来局の際に、「10月以降は必ずテグレトール錠で処方せんを書いてもらうように必ず医師に伝えるように」「テグレトール錠で処方されてない場合は疑義照会が必要なため、これまでより時間がかかります」と患者に伝えた方がよさそうです。疑義照会は「医療上の必要性でテグレトール錠を調剤していいですか」とすれば、医師はYesかNoで回答できますね。「医療上の必要性はありますか?」みたいな疑義照会は避けた方がいいでしょう。
問3 使用感など、有効成分等と直接関係のない理由で、長期収載品の医療上の必要性を認めることは可能か。
(答)基本的には使用感などについては医療上の必要性としては想定していない。
→医師が問1の①~④に該当すると判断した場合を除き、患者の希望で「しっとりがいい」「はがしにくい」とかは医療上の必要性には該当しないということですね。
【薬局における医療上の必要性の判断について】
問4 「長期収載品の処方等又は調剤について」(令和6年3月 27 日保医発0327 第 11 号)の「第1 処方箋様式に関する事項」の「3 長期収載品を銘柄名処方する場合における取扱について」の(4)において、「処方の段階では後発医薬品も使用可能としていたが、保険薬局の薬剤師において、患者が服用しにくい剤形である、長期収載品と後発医薬品で効能・効果の差異がある等、後発医薬品では適切な服用等が困難であり、長期収載品を服用すべきと判断した場合には、医療上必要がある場合に該当し、保険給付とすることも想定されること。」とあるが、このような場合には処方医へ疑義照会することなく、薬剤師の上記判断に基づいて、従来通りの保険給付が可能という理解でよいか。
また、医師等が後発医薬品を銘柄名処方した場合であって、「変更不可(医療上必要)」欄に「✓」又は「×」が記載されていない場合に、長期収載品を調剤する医療上の必要があると考えられる場合は、処方医へ疑義照会することなく、薬剤師の判断で従来通りの保険給付は可能か。
いずれにおいても、「長期収載品」を「医療上の必要性」があるとして調剤するには問1の①~④のいずれかに該当する必要があり、①~③の場合には疑義照会が必要ということが示されました。(答は省略)
また、後発品銘柄処方⇒先発品調剤 に関しては、0315事務連絡において疑義照会なしで調剤可と示されています。(先発品⇔後発品⇔一般名処方の変更調剤まとめ(24年6月時点)【無料PDF付】 - 調剤薬局業務をExcelで快適に PharmaDataLabo)
したがって、④に該当する場合であれば、疑義照会なしで医療上の必要性があるとして後発品→先発品に変更調剤して構わないということになります。
【一般名処方について】
問5 「長期収載品の処方等又は調剤について」の「第 1 処方箋様式に関する事項」の「4 一般名処方する場合における取扱について」の(2)において「一般名処方の処方箋を保険薬局に持参した患者が長期収載品を希望した場合には、選定療養の対象となること。」とあるが、一般名処方された患者が薬局で長期収載品を希望し、薬剤師がその理由を聴取した際に、患者希望ではあるものの、患者の疾病に関し、長期収載品と後発医薬品における効能・効果等の違いがある等の医療上の理由と考えられる場合には、保険薬局の判断で従来通りの保険給付とすることは可能か。
効能効果の違いを考慮し、一般名処方→先発品を調剤する場合の話ですが、これも問1①に該当するのではないかと薬局で判断した場合は、疑義照会で医師の判断を仰げ、というものですね。
【院内処方その他の処方について】
問6 院内処方用の処方箋がない医療機関において「医療上の必要性」により長期収載品を院内処方して保険給付する場合、単に医師等がその旨の判断をすれば足りるのか。あるいは「医療上の必要性」について、何らかの記録の作成・保存が必要なのか。
「医療上の必要性」があると判断した場合は、レセプト摘要欄に『「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について』に従い必要事項を記載することとなりました。具体的には問1①~④のいずれかをレセコメに登録するということになります。
問7 院内採用品に後発医薬品がない場合は、「後発医薬品を提供することが困難な場合」に該当すると考えて保険給付してよいか。
この問がSNSで物議を呼んでいるようです。
(答)患者が後発医薬品を選択することが出来ないため、従来通りの保険給付として差し支えない。
なお、後発医薬品の使用促進は重要であり、外来後発医薬品使用体制加算等を設けているところ、後発医薬品も院内処方できるようにすることが望ましい。
「院内処方で採用品在庫の都合で保険給付を認めるなんて、制度導入が骨抜きになる」という声が多いようです。
ただ、今般の制度導入は患者の都合(希望)で長期収載品を選択している場合に、薬剤料の一部を選定療養費として新たに患者負担とするのが第一義だったはずなので、患者が選択しようがない場合はこれまで通り保険給付となることは尤もと言えるでしょう。
それよりも、ここで重要なのは、答の後半部分だと思います。
わざわざ「後発医薬品の使用促進は重要で~~後発医薬品も院内処方できるようにすることが望ましい」と控えめな表現ながら、「医療上の必要性ならともかく院内処方の採用品都合でいつまでも長期収載品を処方することは、そろそろ許されなくなるよ」というメッセージに思えます。皆さんはいかがですか?
また問10でも出てきますが、薬局の在庫の都合上もこの規定はないと困ると思うんですよね。。
問8 長期収載品の選定療養について、入院は対象外とされているが、入院期間中であって、退院間際に処方するいわゆる「退院時処方」については、選定療養の対象となるのか。
問9 在宅医療において、在宅自己注射を処方した場合も対象となるか。
退院時処方は入院中の処方扱いで選定療養の対象外、在宅医療で処方される自己注射剤は選定療養の対象であることが明確になりました。
【後発医薬品を提供することが困難な場合にについて】
問 10 「当該保険医療機関又は保険薬局において、後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、後発医薬品を提供することが困難な場合」について、出荷停止、出荷調整等の安定供給に支障が生じている品目かどうかで判断するのではなく、あくまで、現に、当該保険医療機関又は保険薬局において、後発医薬品を提供することが困難かどうかで判断するということでよいか。
答は「そのとおり」ということで、出荷調整などの安定供給に起因するものに限らず、まさに今、調剤すべき後発医薬品の備蓄がなくやむを得ず長期収載品を調剤(処方)する場合についても、患者に選択の余地がないため保険給付として差し支えないことが明確になりました。
このおかげで、選定療養の導入をきっかけに先発品⇒後発品に切り替えを希望された場合でも、当該患者のために備蓄していた先発品が捌けるまでは、引き続き先発品を調剤しその間は薬局都合とできます。
【公費負担医療について】
問 11 医療保険に加入している患者であって、かつ、国の公費負担医療制度により一部負担金が助成等されている患者が長期収載品を希望した場合について、長期収載品の選定療養の対象としているか。
問 12 医療保険に加入している患者であって、かつ、こども医療費助成等のいわゆる地方単独の公費負担医療の対象となっている患者が長期収載品を希望した場合について、長期収載品の選定療養の対象としているか。
この問いに関してもしばらく前にSNSで話題になっていましたね。国公費、地方公費を問わず患者都合で長期収載品を調剤(処方)する場合は、選定療養の対象となると明確になりました。まあ、制度の趣旨と当初の規定を考えれば当然なのでしょう。
いかがでしょうか。長期収載品の選定療養についての疑義解釈資料その1を解説してみました。がずいぶん長くなってしまいました。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
こちら↓↓↓↓↓で、まとめPDFを掲載しましたよー(R6.7.22)
ご意見などあれば是非コメントください。