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遠隔服薬指導

 

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2018年4月の診療報酬改定で、医科の遠隔診療が認められたことから、服薬指導が対面を義務付けられていることに異論が及び、2019年薬機法改正(予定)で遠隔服薬指導を解禁する流れとなってきました。

 

実は15年ほど前、S市のドラッグストアの調剤併設店舗から約5kmほど離れた患者さんに対して遠隔服薬指導を行ったことがあります。といっても、調剤併設ドラッグストアをアピールするための地元テレビ局の取材用にデモをしただけですが(笑)

当時画期的な「テレビ電話」機能を持った携帯電話「FOMA」を利用して、臨時のかぜ薬が処方されたという想定で遠隔服薬指導を行い、夕方の情報番組で放送されました。

それ以降は実際に遠隔服薬指導を勧めるという流れにはならず立ち消えになりましたが…

 

なぜ対面義務だったのか

 

 2014年の薬事法改正で調剤された医薬品の情報提供について新たな規定が設けられました。

第九条の三 

薬局開設者は、医師又は歯科医師から交付された処方箋により調剤された薬剤の適正な使用のため、当該薬剤を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により厚生労働省令で定める事項を記載した書面(略)を用いて必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。

 それまでは、「調剤された医薬品」は薬事法で定める「医薬品」には当たらないとして、薬事法においては全く規定されていませんでした。

(調剤に関することはほぼ全てが「薬剤師法」で規定されていました)

 

前職で調剤薬のデリバリー&遠隔服薬指導を開拓せよと指令を受けていた私はビックリしました。万事休すです。

 

では、なぜこのような規定ができたのか?

実は、OTCのネット販売と深く関係していることをご存知でしょうか。

薬事法では薬局・店舗販売業を許可を取得している店舗での販売しか想定しておらず、インターネットなどで注文を受ける店舗外販売については規定されていませんでした。これに対応するため厚労省令で「第3類医薬品のみネット販売可」と通知し、それに基づいて保健所が監視指導を行っていました。

これに異を唱え、法廷闘争を始めたのがケンコーコム(現在は楽天の子会社)でした。

結果、最高裁で厚生省令は無効との判断が示され、さらに景気回復を大義とする安倍政権が「すべての一般用医薬品をネット販売可とすべき」と言ったりしたことで、一時OTCのネット販売については無秩序状態に陥りました。

 

この最悪な事態を打開すべく厚労省が打ち出したのが、「要指導医薬品」の導入でした。安倍ちゃんの発言を100%生かしつつ、ネット販売反対の日本医師会(自民党の大票田)、日本薬剤師会、消費者団体のメンツを保つ妙手(奇策?)を編み出しました。

結果、第1類医薬品を含めてOTC(一般用医薬品)は全てネット販売可、要指導医薬品は対面販売を義務付ける、という流れになりました。

(旧ケンコーコムは更に要指導医薬品についてもネット販売解禁を訴え提訴しましたが、平成31年2月6日に東京高裁判決で敗訴しています)

 

これに慌てたのは日本薬剤師会です。ネットの雄Amazon楽天、ヤフーなどが一斉にOTCのネット販売に参入し始められたら、会員薬局のOTCの売上げがあっという間になくなるかもしれません。何より、メンツが立ちません。(もともと会員薬局のOTC売上なんて知れているのですが…)

そこで、ネット販売について省令で細かな条件を設けることに腐心しました。

  • ネット販売等の購入受付は実店舗に薬剤師または登録販売者がいる時間帯に限る
  • ネット販売等できる品目は実店舗に実際に在庫している商品に限る

などを省令に盛り込ませることに成功しました。

 

これに対して、ネットの雄、日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)側は「してやられた」というか、議論にも加われない体たらく状態だったのでしょうか。

 

ともあれ、ネット販売等するには実店舗で扱っている品目を、その店舗で資格者が勤務している時間に限るということになりました。

 

そして、その議論のついでに調剤された医薬品についても対面での情報提供を義務付ける議論が並行して進められていたのです。

資本力に勝る大手調剤薬局チェーンやドラッグストアが売り上げを伸ばす中、少しでも制約を増やして、資本力組織力では勝負できないようにしておきたかったのでしょう。

 

こうして、OTCのネット販売可否の議論の陰で調剤薬の対面での情報提供義務が決まっていったのです。

 

日本薬剤師会の先見力の無さ

 しかし、メンツを保ちたいという日薬の思いとは裏腹に、医科では遠隔診療を推進する流れがどんどん進んでいきました。

世の中のICTの流れにも無頓着でした。

2018年の診療報酬改定で遠隔診療に点数がつくという事態になっても、自ら勝ち取った対面での情報提供義務を手放すことは決してしません。

そして、2018年4月以降マスコミなどで遠隔診療はできるのに遠隔服薬指導は違法という現状を世間に晒されることになりました。

処方の元になる「診療」自体が画面越しに行われるのに、処方された薬の説明は対面でないと安全性が担保できない、というのはあまりにも滑稽でした。

 

国は国家戦略特区という制度で遠隔服薬指導の試験運用を開始しましたが、メンツがある薬剤師会は試験運用に参加する薬局が多いと困るので、

1. 離島、へき地に居住する者に対し、
2. 遠隔診療が行われ、
3. 対面での服薬指導ができない場合に限り、
4. テレビ電話による服薬指導(いわゆる遠隔服薬指導)が可能

という極めて限定した条件下で実施されることになりました。

日薬としては遠隔服薬指導への流れは不可避と感じながらも、時間稼ぎがしたいとか、対面による情報提供義務を設けたメンツが傷つかないように展開したいなどの思惑が透けて見えます。

  

遠隔服薬指導の課題は?

電子処方箋の普及

 

 

グレーゾーン解消制度によって服薬指導後の調剤薬の郵送などは適法とされましたが、そもそも処方箋の受付をどう規定するのか、が問題になりそうです。

今検討されているのは、電子処方箋の利用拡充です。

2018年の診療報酬改定で規定された電子処方箋の運用では、電子的に(データとして)医療機関から薬局に処方せんを送信することに加え、患者は電子処方箋を交付した旨の用紙を薬局に持参する必要があります。

え、結局紙が必要じゃん??というのが現状です。明らかにアホな運用と言わざるを得ません。厚労省も十分承知しているようで今回の法改正議論ではその辺も検討が進められているようです。

 

また、電子処方箋の普及にはインフラの整備が不可欠です。

医療業界には様々な企業が参入していて、それぞれ独自のフォーマットでシステムを構築しているのが現状です。(NSIPSだけは例外で、福岡県薬剤師会が調剤に関するフォーマットを考案し業界団体に普及しました)

レセプトのオンライン請求やNSIPSと同じように行政などがフォーマットを定義しない限り、フリーアクセスを担保するためのシステムの構築の実現は厳しく、中途半端な電子処方箋の制度開始は一部の医療機関・薬局に利するか、多くの患者に迷惑をかけることになります。

 

遠隔服薬指導のツール

 

現在国家戦略特区での遠隔服薬指導のシステムを数社が提供しています。

遠隔診療においてはガイドラインが定められていて、情報通信ツールもその内容に則っている必要があります。ただし、このガイドラインは比較的緩いもので、実際にはLINEのビデオ通話機能を利用している医師も少なくありません。

専用のツールを導入するにはそれなりのコストが発生します。LINEであればスマホを持っている人であればだれでもすぐに利用できます。

ただし、診療に必要な「データ」などを送信したりする場合は、サーバーにデータが一時的に保存されることになるため、セキュリティが担保されたシステムを採用した方がよさそうです。

 

遠隔服薬指導においても同様か、または少々厳しい要件が課されることが想像できます。なぜ、少々厳しいか?ですが、簡単に言うと日薬の嫌がらせでしょう。

個人~中小薬局の連合体である日薬は、遠隔服薬指導のハードルを上げることに躍起になるのは想像に難くありません。

しかし、もしハードルを上げることに成功したとすると、今度は会員薬局が遠隔服薬指導にチャレンジするためのハードルも上げることになるのです。

体格(資本力組織力)が小さい分、相対的な高さは更に高くなることでしょう。

 

日薬のかじ取りに注目していきたいものです。